ロンドン・ストリート物語(3)Berwick Street

今回もSOHOのストリートについて書く。

・・・と書き始めてふと思った。そもそもSOHOってどこからどこまでなのか? 別にロンドン市の正式な記述を調べた訳ではないが、ネットで色々見た結果、おおむね次の様に認識するのが一般的だという結論に達した。

北はオックスフォード・ストリート、南はシャフツベリー・アベニュー。
西はリージェント・ストリート、東はチャリングクロス・ロード。
この4本の通りに囲まれた地区がSOHO地区・・・という認識でどうだろうか?

ただこうなるとシャフツベリー・アベニューの南側にあるチャイナ・タウンはSOHOではなくなる。「SOHOのチャイナタウンでメシ喰った」という記述は「誤り」となる。でも僕はそれでいいと思っている。チャイナタウンはチャイナタウンとしての輝かしい独立性を保っている。SOHOとは明らかに文化圏として異なる。だから別々に考える方がしっくり来るのだ。

・・・というわけで今回はSOHOのバーウィック・ストリート。
ここはキングリー、オールドコンプトンに続いて、僕がロンドンで3番目に好きな通りである。
その理由は、感動もののレコード屋(CDではない)があるからだ。

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その名も"Sister Ray"。ぱっと見、Sisterという店だと思うが、よく見るとSisterの後にRayと書いてある。この店はれっきとしたレコード屋である。しつこいようだがCDでも中古でもない。ちゃんとした新譜のレコードを売っている。それが何よりもうれしいのだ。

レコードが72回転の頃はエボナイトという物質で出来ていた。だが70年代に僕らが親しんだ33回転のレコードは塩化ビニール製だ。だからロンドンではビニール(Vinyl)として売られている。普通に考えればそれは中古レコードのことだろう。だがここでは違う。なんと新譜が存在するのだ!

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上の写真を見て欲しい。これはつい最近シスター・レイに行った時に僕が買ったLPだ。1970年にリリースされたローリング・ストーンズのライブ。中古ではない。なんと2003年製の新譜だ。リマスター版というシールが貼ってある。つまり「リマスター」した上で再プレスしたれっきとした新譜のレコードなのだ。一体これでペイするのかどうかふと心配にもなるが、それは企業が考えればいいことなので忘れることにした。

僕らはかつて、このようなレコードをカセットテープに録音して友人たちに回し、それぞれのパートを練習してから集まって、自分たちのバンドで演奏した。当時は金銭上の理由から自分で買えないレコードもたくさんあった。それから40年・・・できることならもう一度あのレコードが欲しいと思う日もある。その夢を叶えてくれたのがこの店だった。

考えてみて欲しい。かつて欲しかったけれど買えなかったレコードがここにある。それも中古ではなく新譜だ。手に取って眺める。購入して自宅に持ち帰る。プラスチックの封を切る。バージンのレコードをターンテーブルに載せる。針を落とす。音楽が溢れる。真新しいレコードだから雑音は全く無い。何といううれしい瞬間だろう・・・。それ以来ロンドンに行くたびに、僕は時間がある限りこのバーウィック・ストリートを歩き、Sister Rayに立ち寄るようにしている。

音楽をレコードで聴くかCDで聴くかはその人の選ぶ「聴き方」による。誰もが自分で心地よいと思える聴き方を選択すれば良い。最近亡くなったスティーブ・ジョブズには悪いが、誰もが音楽をコンピュータで聴きたいと思っている訳ではないし、誰もが音楽を1曲150円でitunesで購入したいと思っている訳でもない。おそらくitunesの対極に位置するのがこのSister Ray なのだろう。そして僕はitunes よりも、ここで実際に手に取って十分吟味してから手に入れるレコードの方が好きなのである。

london3berwick05.jpglondon3berwick06.jpgのサムネール画像






















話をバーウィック・ストリートに戻そう。

この通りが注目されているのは"Sister Ray"のためだけではない。ここはロンドンでも有数のファッションの発信地でもある。ファッションと言ってもそれは服飾には限らない。上の写真はスター・ジュウェラーズというアクセサリー屋だ。だがこの店にはひと味違うおもむきがある。

ショーウィンドウをのぞくとそこではガイコツが笑っている。
何かと思えば、これは電話機である。ガイコツの中央にタテに受話器が置かれている。そのガイコツはすべて宝石のようなガラス細工で飾られている。電話機という概念を根底から否定する商品がそこにある。

CDの時代にレコード、普通では考えられないガイコツの電話機・・・。つまりこの通りは常識では考えられないことをあえて提示する「芸術通り」と考えられるだろう。

これは現実なのだろうか?というグラッとする感覚。
これこそがロンドンのストリートが持つ底知れない魅力なのかもしれない。



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