Summer Christmas, 1974

書店に並ぶ一週間ほど前、集英社から宅配便で届きました。皆もそうでしょうが、この本の取材協力者の一人でしたから。
ページを捲る前に、ひととおり本の外回りをしげしげ点検。何よりまず、装丁が秀逸だと感じました。口をひんまげた顔写真のインパクト、地色のブルーのすがすがしさ。恐る恐るカヴァーをめくると、橙色の表紙本体に四十数年前のリスナーたちの懐かしい姿が現れ、皆の視線が一斉にこちらに向けられるのに、思わず胸が一杯になりました。深夜ラジオの送り手が受け手たちを包み込むという仕掛けに、デザイナーの周到な配慮が感じられる。
そして帯に記された久米宏さんの推薦文----「この分厚い本は、彼の、そして僕たちの奮闘記です」とある一節には真情が漲っていますね。 

久しぶりに全体をざっと再読しましたが、自分自身のことがしきりに出てくるので、なかなか冷静に読めないのが玉に瑕かな。これは連載時と同じ印象です。もっとパ聴連=荻大の皆の発言がバランスよく均等に、ポリフォニック(多声的)に絡み合うように進行したらいいのに、もっと心穏やかに読めるのに・・・と、どうしても思ってしまう。
そのことは連載時にも何度か柳澤氏にメールで指摘したのですが、「誰かひとり、狂言回し的な準主役が必要。事の次第を詳しく憶えているのは沼辺さんしかいない」との返答でした。当時、必ずしも主導的な立場でなかった者がしゃしゃり出て、多くを語っているという図々しさが、ちょっと「自分的に顰蹙」なのです。 

その一点を別にすれば、これはまさに画期的な読み物ですね。単に林さんと林パックのクロニクルというに留まらず、1960~70年代のTBSが醸し出す活気、局アナたちの青春群像、どん底の日本映画を復興させようという熱い機運、まだ若く無名だったセリやユーミンらの素顔など、読みどころが満載だと思います。 

連載をまとめるにあたり、皆から指摘のあった誤りを訂正し、あちこち表現や事実関係が改められています。例えば1974年のサマークリスマス当日の模様も、小生が実家でみつけた当日メモをもとに、事の成り行きが全面的に書き直された。三月初めに最終的なゲラが集英社から送られてきて、小生はそれも通読しましたが、もうほとんど指摘すべき誤りはなくなっていました。書籍化に際し、正確を期すべく誠実な努力が払われたと感じた次第です。
「林美雄とパックインミュージックの時代」について、これを超える評伝はもう二度と出ないでしょう。

最後に、これは全く個人的な印象なのですが、表紙カヴァーと表紙本体に記されたこの本の英語タイトル "Summer Christmas, 1974" に、思わずグッときてしまった。これって、あのロバート・マリガン監督の忘れがたい秀作《おもいでの夏》(ジェニファー・オニール主演)の原題 "Summer of '42" をなんだか思い出させませんか? 
われらにとって、あの1974年8月こそは「おもいでの夏」だ、という感慨が胸に溢れ、ミシェル・ルグラン作曲の主題歌が耳の底で静かに流れ始めました。

コメント(1)

大輔 Author Profile Page:

玉稿をありがたく拝受。
皆様下記リンクを聴きながら読んで下さい。
https://www.youtube.com/watch?v=cFZcXyIw78k

コメントする